石の家 8話:小さな恋の物語.2
2004/01/12 Written by サエ

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自分が飛び込んで助けるべきだろうか!?
だが、こんな深い所、潜ったことないし・・・・・・
と、躊躇している間にシパーフはその長い鼻で転落者を無事救助していた。
それは、まだあどけない少女であった。
自分が今まで出会った中ではピカ一の美少女だ!

「それじゃ〜、岸辺まで戻るのね〜〜ん」
「え〜、もう!?もう少し〜〜!」
「でもよぉ、あそこに・・・・・・」

ダチが指差した岸辺には、
シドが仁王立ちしてこちらを思いきり睨む姿があった。

「うっ・・・しょうがないっスね・・・・・・」

帰り道、ダチとリュックは 名残惜しそうに仔シパーフをずっとなでていた。
アニキは・・・・・・
ずーーーーーっと口を開きっぱなしであった。
謎の美少女のことをあれからずっと目で追っていたのだが
その少女はその間にも何回も何回も何回も
自ら海面へ飛び込んでは、シパーフの鼻で救助され
その度に玉を転がすような笑い声を立てていた。
アニキ達の乗った仔シパーフとすれ違う時、
彼は美少女の保護者が
半狂乱の声で少女の名を連呼しているのを聞いた。

キマリ「ユウナ、ユウナ、ユウーーナーーーー!!」

美少女――ユウナはまたもやシパーフの鼻で海面から救い上げられ
その時偶然目が会ったアニキに
少しはにかみながらも舌を出しておどけて見せた。
そしてアニキに微笑みかけたまま
少女は懲りずにまたしても海面へと飛び込んでいったのである。

リュック「ええっ!?今、誰か落っこちた!」
ダチ「・・・・・・・・・こっちも、落ちたぜ・・・・・・」

見ると、アニキが意を決して海面へと飛び込んだ所であった。
ユウナが何度も飛び込んでいるのを見て
自分にも出来るとようやく決心したらしい。

俺が、助けるんだっ!
これをきっかけにお友達になってもらえるかもしれないし・・・
俺もシパーフの鼻に乗りたいし・・・・・・

・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・・・・


ダメ・・・・・・ぽ・・・・・・



そして・・・・・・


「テメェ、いい加減に起きやがれっ!!」
「うおっ!?冷たっ!!」

シドにバケツの水をぶっかけられ、アニキはやっと目を覚ました。
気が付けば、そこは見慣れた我が家・飛空艇の甲板であった。
一瞬事態が呑み込めず、キョロキョロ辺りを見回すと
広い甲板の上をリュックとダチが懸命に雑巾掛けをしている姿があった。

「テメェらのおかげで計画は無茶苦茶だ!」
「あれほど、ウロチョロすんなって言ったのによっ!」
「罰として甲板の掃除だ、終わるまで戻ってくんなよっ!!」

シドはプンプンしながら操縦室へ降りていった。
殊勝に掃除をしていたダチやリュックがようやく近づいてくる。

ダチ「なんか、俺達シドさんの邪魔しちまったみたいでよ。」
リュック「オヤジの姪っ子・・・つまりはアタシ達の従兄弟だよね?」
「ふっか〜〜い事情があって、直接じゃなくって影から見たかったらしいよ。」
ダチ「でもよ、お前が溺れちまって・・・・・・」
リュック「そうそ〜、大変だったんだから〜〜!」
「アニキを助けようとして仔シパーフまで溺れちゃってさ!!」
ダチ「思いっきり目立っちまって、シドさん立場ないってそりゃオカンムリでよ・・・」
アニキ「そっか・・・リュックは、その従兄弟って会ったか?」
リュック「ううん。オヤジ、自分の正体を知られたくないみたいでさ〜。」
「幻光河から引き上げられたら、直ぐ帰ってきちゃったし。」
アニキ「あの・・・・・・、女の子、どうした?」
ダチ「女の子?なんのことだ?」
アニキ「あ、いや、なんでもないんだ!」
「早く掃除終わらせようぜ!!」

シドが幻光河へやってきた目的は、ユウナに一目会うためであった。
しかし、アルベド族族長としてユウナ母を勘当したため
まだ大っぴらに対面するわけにはいかなかった。
ユウナがビサイドへ行く前に、シパーフに乗りに行く情報を入手したため
この地を訪れたのである。
あくまで、影からコッソリ見るだけだったのに・・・
ユウナの目の前で、思いっきり目立ってしまった!!
なんて、恥さらしな・・・・・・
いや、まだ、自己紹介はしてないんだけども。
ユウナは幸か不幸か、
そのままシパーフに乗って幻光河を渡ってしまった。
これはもちろん、ユウナの真似をして飛び込んだ子供を見て
体裁を気にしたキマリが早々にその場を後にした所為なのであるが・・・
結局シドは、本当にチラっとしか
ユウナを見ることが出来なかったのである。

こうして。
心奪われた美少女ユウナが
まさか自分の従兄弟と同一人物だとは露とも知らず、
思いを募らせるアニキなのであった。

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