石の家 24話:真夏の夜の夢
直前の画面に戻る2004/02/06 Written by ノア

今は、夜9時過ぎ・・・消灯時間を少しすぎたところだ。
少女たちは完全個室を与えられていた為、
いつもその時間ともなると廊下に出て、
名残惜しむように友達とお喋りをしているのだった。

エルオーネ「はいはい、みんなぁ〜、消灯時間よぉ。」
「そろそろ自分の部屋に戻ってちょうだーい。」
リュック「うううう〜ん、もう寝るのぉ?」
セフィ「しょうがないねぇ〜。・・・あれ・・・ティナ、大丈夫?」
シヴァ「ティナ!!真っ青じゃない!!」
ティナ「へ・・・平気よ・・・ちょっと頭痛いけど・・・」

気丈にもそう答えたティナだったが、
その顔はシヴァよりも青い顔をしていた。
立っているのもやっとの様子だ。
さすがにみんな、心配になり周りに集まってくる。
・・・いや、ユウナレスカだけ、
ティナから距離をとるように後ずさっていた。
さっきまで陽気に踊っていたくせに、
今は彼女も青い顔をして・・・震えていた。

「その子・・・・・・なんだか怖い・・・」

そう答えたユウナレスカの声には、
確かに怯えの色が濃く滲み出ていた。

キスティ「ツォン先生、呼んでこようか?」
エーコ「(ハッ!・・・こ、これは・・・)」
「大丈夫、エーコにまかせて。」
「えーと・・・風神も手伝ってくれる?」

ティナに肩を貸しているエーコであったが、
体躯の差がありすぎて今にも潰れそうな様子である。
風神が慌てて、反対側の肩を支えてあげ、
シヴァの先導でティナの部屋へと向かった。
他の少女たちも心配そうにその様子を見ていたが、
やがて自分たちの部屋へ帰っていった。
怖い怖いと泣き出していたユウナレスカも、
ティナが視界からいなくなると、自分の部屋に戻っていった。

ティナをベッドに寝かせると、
あっという間に寝息を立てだした。
しかしその息は少し荒い。

シヴァ「風邪かしら?一体どうしたのかしら・・・」
風神「彼女、側・・・冷気・・・極寒世界・・・」
シヴァ「(どきっ、私のせい?)」
エーコ「そうね・・・確かに冷たいわ。」
「でも冷気じゃない・・・霊気のせいよ・・・」
シヴァ「霊気?!?!」
風神「・・・納得・・・流石紐様・・・彼女、霊感強大」
エーコ「彼女の召喚士としての能力が感知していたのね。」
シヴァ「ティナは・・・何かにとり憑かれてる・・・と・・・」

ふと・・・部屋の中に生臭い匂いが充満してきた。
それは段々密度を増していくようだ。
それに合わせるかのように、
ティナの息も苦しそうにドンドン荒くなっていく。

風神「気持惡・・・吐気感有・・・」
エーコ「どうやらこの時間に定期的に来てたようね。」
「・・・ほらっ!」

エーコから鋭い声が飛んだのと同時に、
部屋にあった大きな窓が突然バーンと開いた。
凄まじい突風が・・・怒気がそこから流れ込んできた。
目を開けているのもやっとのくらいだ。

その風が少し収まったかと思うと・・・
窓から巨大な女の顔がのぞきこんでいた。
少しうつむき加減に部屋を睨んでいる。
女の髪は蛇のようにうねっていた。
口が気味悪いほどに裂けている。
真っ青なその顔は、とても正気に耐えるものではなかった。

おのれ、よくも・・・


地の底からにじみ出てくるような、
怖ろしい声だった。
一言一句に、呪い殺してやるという怨念がこもっていた。
さすがにシヴァも風神も声がない。

許さぬぞ!!!


圧倒的な咆哮とともに、女が顔を上げた。
眉毛はつりあがり、
その目は・・・真っ赤だった・・・瞳も瞳孔も何もない。
ただの、赤い目・・・真っ赤な空洞・・・がそこにあった。

風神「!!!!シェ・・・シェリンダ・・・」
シヴァ「まさか・・・」

悪鬼のようなその女の顔は、
それでも間違いなくシェリンダのそれであった。
ただ、幼さやあどけなさとは無縁の顔だ。

エーコ「これは・・・シェリンダの・・・生霊だわ。」
「どんな死霊よりも厄介な相手よ。」
シヴァ「で、でもティナは、何もしてないわ!」
エーコ「・・・この生霊は妬み、僻みの塊。」
「シェリンダの奥底に潜んでた怪物よ。」
「多分・・・本人もこうなってるなんて思っちゃいないわね・・・」

しゃべってる間にも、
シェリンダの生霊はエーコ達には目もくれず、
ジリジリとティナに迫ってきていた。
逆立っていた髪がスルスルと伸びてきて、
今にもティナを絞め殺そうとしているかのようだ。

おのれ、スコールに近づくなどと・・・
忌々しい奴め!!


風神「ス、スコール?!」
シヴァ「じゃ、じゃ・・・ティナに嫉妬って・・・」

ますます風圧が激しくなってきた。
台風のようだ。
部屋の中のものはみな、てんで勝手に飛び回っている。

エーコ「そう、二人の仲を妬んでのことよ・・・」
「風神!!!」

エーコに言われるまでもなかった。
風神は、前からシェリンダとはウマが合わなかった。
シェリンダのほうも、風神を特に恐れる節があった。
ベアトリクスでは一緒にすごし過ぎて、
シェリンダのほうで免疫が出来ていたのか。
今では彼女の引き締め役は風神となっていた。

風神「・・・・・・殺!!!」

嘘のように風圧がやんだ。
怖ろしい顔をしていた女が、
自分より怖ろしいものなどいそうもないのに、
子供のような泣き顔になった。
そのまま靄のように、かき消えてしまった。

気がつくと部屋の中は元に戻っていた。
あれは一種の霊障だったのか・・・。
ティナは・・・まだ顔は青いが、いくらか血色が戻ったようだ。
今は気持良さそうな寝息を立てている。

シヴァ「どどど、どうなったのでしょう・・・」
エーコ「もう大丈夫よ。」
シヴァ「あんなものに毎日うなされていたなんて!!」
エーコ「さっ、エーコはこのまま先生のところに行くわ。」
「シヴァはこのままティナについててあげてもいいわよ。」
「風神は一緒に来てくれる?」
風神「御意。」

そういって二人は、イデアのところへ行った。
詳細を聞いた上で、風神から数本の髪を抜かせてもらった。

イデア「これが一番のお守りになるでしょう。」

そういって、これを全女子生徒の窓に貼り付けると約束してくれた。
イデアが貼ってくれるのだ。
風がふこうが雨がふろうが剥れることなど有り得ない。
スコールに限らず、他の男子生徒と仲良くなった子の部屋にも
シェリンダが来訪しないとは限らない。
全ての処置が終えた後で、
イデアは風神にココアを出してくれた。
飲んだ後には、シェリンダの生霊については忘れている。
風神が不思議そうに、ここで何をしていたんだろう、と
自分の部屋に戻っていったあとで、
エーコとイデアはしばらく話していた。

イデア「それにしても・・・さすがですわね。」
エーコ「シェリンダだし風神がいれば大丈夫って思ったんだけどね。」
「さすがに本物を見たときはエーコもビビッちゃいました・・・」
イデア「嫉妬・・・羨望・・・人間の欲望とは千差万別ですね。」
エーコ「シェリンダは一体・・・どうなるんでしょう。」
イデア「あの子も可哀相な子です。」
「本人も恐ろしい夢を見てしまったとは思ってるでしょう。」
「多分夢の中でストレス解消してるつもりだったんでしょうが・・・」
「成長するにしたがって、本人の自覚で消えていくはずです。」
エーコ「エーコの中にも・・・あんなものが・・・」
イデア「そうね大小の差はあれど、みんな持ってるでしょう。」
「きっと私の中にすら・・・」


ああ・・・でも、イデア先生の生霊なら・・・
憑き殺されてもいい・・・


不覚にもそう思ってしまったエーコであった。

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