石の家 22話:ズルい女
直前の画面に戻る2004/02/04 Written by ノア

シェリンダの「光の家」での暮らしぶりは、
今までの生活と比べて半分は素晴らしくなり、
半分は納得のいかないものであった。

ベアトリクスとメイチェンと過ごしていた時は
お世辞にも豪華な食事というものは皆無であった。
なんといっても、
メイチェンはかすみを喰って生きる存在である。
仙人生活の為、気がつけば1日何も食べなかった日もある。
また、変わった場所へ行くとほとんど野宿生活となった。

しかし光の家では、朝昼晩とキチンと三度の食事が出た。
またその内容も充実したものだ!!
大っ嫌いだったオーガの肉も、ここでは食卓に上ることすらない。
夜ともなれば、フワフワのベッドが待っている。
やぶ蚊に悩まされることも
アチコチで聞こえる遠吠えに怯えることも、
ここでは皆無であった。
衣食住に関して言えば問題はなかった。
というより、前の生活とは天と地ほどの差だ。
これにはシェリンダはおおいに満足していた。

シェリンダが気に入らなかったのは、
三人で旅しているときなら【まかり通っていたもの】が、
ここでは全く通用しなくなってしまったことである。
アレが欲しい、休みたい、と言えば
ベアトリクスがブツブツ言っても希望は叶った。
無論、中には金銭的な問題もあり、
欲しいとゴネてもダメなものはダメなのだが、
メイチェンの扱いには長けていたのか、
【今すぐ】でないだけで結局はゲッツしていたのだ。

それがここでは・・・

セフィ「ああ〜、シェリンダ、いっけないんだぁ〜!」
キスティ「何してるの、休んでる場合じゃないわよ。」
エーコ「だめだめ、そんな事じゃ立派な召喚士にはなれないわっ」
ルブラン「ちょいと、あんた、何してんのさ!」
ドナ「自分の両の足でキチンと立ったらどうなの?!」
風神「・・・・・・殺。」

・・・エトセトラ、エトセトラ・・・。

ああ、これではまるで、総ベアトリクス状態。
ベアトリクスの目を盗んで休んだりさぼったりしても、
その他の子の目までは誤魔化せない。
数が多すぎるのである。

マイペースが僧侶の服を着て歩いてるようなシェリンダ、
自分の思い通りにならないことが我慢ならなかった。

そうそう、今までと劇的に変わった点はもう一つある。
「石の家」の生徒達の存在であった。
みんなハンサムで格好いい子達ばっかりだった。
夢想家のシェリンダはいつも日替わりで
「今日は○○クンが私のダーリン♪」と勝手に思い込み、
その日一日はその子の恋人気取りをして楽しんでいたのである。

一緒にいる他の光の家の子たちは、
どう見ても自分が負ける気はしないし、
イデア先生は確かに美人だとは思うが、
自分が年頃になったときにはとっくにおばあーちゃんになっている。
石の家の子たちは、みな、自分に夢中になっている!!
・・・と信じていた。

「そういえば、もうそろそろバレンタイン・デーねぇ」

他の女の子たちとの差を更に広げるべく、
シェリンダは物理的攻勢に出ることにした。
怒涛のプレゼント作戦だ!
しかし・・・金がない。
例え金があったとしてもビサイドでは反物くらいしか手に入らない。
一体どうしたらいいものか・・・。

ブリッツの対校試合をボンヤリ見ながらそんな事を考えていた。
すると・・・少し離れた岩陰に、
なにやら見覚えのある頭が二つ覗いていた。
先生も子供たちもブリッツに夢中で、
誰一人、彼らに気づいてるものはいないようだ。

シェリンダはみんなの輪からソーッと離れると、
気づかれないように注意しながらその岩陰へと近づいていった。
岩陰から覗き込んでいた二人も、
何やら必死に誰かを探しているらしく、
シェリンダの接近など知る由もなかった。

ソーン「子供が多すぎるでおじゃるぅ。」
ゾーン「みんな可愛すぎてわからんでごじゃるぅ。」
ソーン「ツノツノツノ・・・角・・・ハッ!あの子でおじゃる!」
ゾーン「今、ボール打った子、可愛いでごじゃる・・・」
ソーン「しっかりするでおじゃる!」
ゾーン「すっかりファンでごじゃる・・・」

「あんた達、また人攫いに来たのね?」

背後から突然声をかけられ、二人はもう逃げられないと
そのまま両手を上げて固まってしまった。

シェリンダ「あんた達の狙いはエーコでしょう?」
ソーン「そうでおじゃる・・・」
ゾーン「連れて帰らないとヒドイ目に合うでごじゃる。」
ソーン「諦めるでおじゃる。」
「我らはこのままブタ箱行きでおじゃる。」

二人はシクシクと泣き出した。

シェリンダ「どう?先生に言わないでいてあげてもいいわ。」
ソーン「本当でおじゃるか?」
シェリンダ「私の言うとおりにするなら、だけどね。」
ゾーン「本当でごじゃるか?」
シェリンダ「これからずっと、私の欲しい物を届けてくれるならね!」
「通報しないだけでなく、エーコのことを教えてあげてもいいわ。」

二人ともあまりの条件のよさに、思わず万歳していた手を下ろし、
後ろを振り返ってみた。
そこには得意げにふんぞり返るシェリンダが立って居た。

「物々交換よ。」
「私の欲しい品物と、あんた達が欲しいエーコの情報。」
「私ならなんでも調べられるわよ。」
「本人に直接聞いたっていいんだし。どう?」

ソーンとゾーン、さすがに真面目に相談しだした。
これは・・・中々にいい提案なのではないか?
同じ子供同士なら、より飾らない、
リアル・エーコたん情報をゲッツ出来るのではないか?
二人は改めて、シェリンダと握手を交わし、
ここにエーコ密約協定が結ばれた。

「あんた達ももう、ブリッツの練習日くらい調べてあるでしょ。」
「その日を取引の日にしましょう。」
「まず1回目の品物は・・・今日はギッポーがダ〜リン♪の日だから・・・」
「そうね、純金の眼帯。それ、お願いね。」

そういい捨てると、シェリンダは皆のところへ戻っていった。
一方、ソーンとゾーンの方も、
岩陰に隠しておいたカヌーに急いで乗り込み、
沖へと繰り出していった。
ヴェグナガンに壊された船はまだ直ってないようだ。

オダインは確かにエーコたん情報を欲っしていた。
自分のオダイン・グッズを更にパワーアップさせるためだ。
しかし・・・・・・。
シェリンダの主観が思いっきりはさまれた報告で、
一体どのようなアクセサリーが出来るのというのだろうか。
オダインブランドの名に傷がつかないことを祈る。

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