石の家 2話:明日に向かって撃て
直前の画面に戻る2004/01/05 Written by ノア

水平線に一筋の光が漏れ出てきた。 午前6時・・・ちょうど夜が明ける頃だった。
顔をのぞかせだしたまぶしい光が
ビサイド村の海をキラキラと照らし始めていた。

一人の少年が砂浜へとやってきた。
少し辺りをうかがっている。

よし・・・誰もいないな
僕も一生懸命練習して・・・誰よりも上手になるんだ

そういった少年の手には、ブリッツボールが握りしめられていた。
彼の故郷でもブリッツは盛んだった。
手足の長い彼らは泳法に長けており、既に何人もの名選手を輩出していた。

しかし彼は・・・高い身分にありながらも、
いつも滅相もありませんとおためごかしに断られ、
真相は半人であったが故に皆から邪険に扱われる節があった。
ただ一人、誠心誠意尽くしてくれる家臣がいたものの、
ケガでもされたら大変とばかりに、
彼もブリッツだけは賛成してくれなったのである。

僕だって・・・やれば出来るんだ

ママン・・・ママ先生に連れてこられ彼はやっと解放された、と思いきや、
新土地には、沢山の子供たちが他にも大勢いた。

ママ先生を独り占め出来るとばかり思っていただけに、
彼には少々ショックであった。
そして当然のことながら、
ママ先生はみなの最重要関心を集めていたのである。

この学園にいるものは、みながほとんど、このブリッツを上手にこなしていた。
驚くべきことに、女子もみな、達者であった。
自分と同じ新入生のはずなのに、小生意気な感じのする褐色の女の子は、
初代グループに引けをとらない実力を既に持っていた。

「あ〜らあらあら、こんな事も出来ないのかしら。」

話し方も少し大人ぶっているその女の子と一緒になって、
誰よりも大きい声で笑っていたアイツ・・・
確かサイファーとか言っていたか。

く・・・くそぉ・・・・・・
あいつにだけは・・・あいつにだけは、負けたくない!

長い袖で涙を拭き払うと、彼は背中をぐいっと伸ばし、
深呼吸してからボールを砂浜にソッと置いた。

えーーーーーーーーい!!!

すってーーーーん・・・・・・・・・

ものの見事に彼はひっくり返ってしまった。

「おいおい、な〜にやってんだよ(ニヤニヤ)」

嫌な予感がしながらも、渋々砂の中から顔を上げてみると・・・。
一番見られたくなかった相手、サイファーが立っていた。
その横には、昨日、自分と一緒にやってきた、
雷神とかいう大きな男の子も居た。

「シーモアさんよぉ〜、こぉおおんな朝から何やってんだぃ。」
「見ちゃったもんよ、ひっくり返ってたもんよ。」

そして二人はまた大きな声で笑い転げだした。
サイファーは、大げさに転ぶ真似を何回もしていた。
それを見るたびに、雷神は腹を抱えて笑っていた。

「うううううう・・・・・・・・・」
「や・・・・・・やめろーーーーーーーぉ!!」

きっと生まれてはじめてのケンカだったに違いない。
今までの故郷では、こうもあからさまに、
彼に対しての侮辱は行われなかったからである。
彼は今、初めて本気でぶつかり合うことを覚えたのだ。

「痛くもかゆくもないんだもんよ・・・」

その一声とともに、軽くなぎ払われてしまったシーモア。
さすがだ、雷神。
伊達に山口県大相撲大会で優勝はしていない。
サイファーはそれを見て、更に笑い転げるのであった。

「うわわわゎわあぁぁぁぁあぁあんんん!!!」

恥も外聞もなく雷神に立ち向かっていくシーモア。
雷神に何度砂に埋められても、
必死の形相で彼は立ち向かい続けたのである。

そこへ、また別の少年たちの声がしてきた。
・・・とても明るく朗らかな笑い声が響いてくる。
アービンが、見慣れない少年を浜辺へ案内しに来たらしい。
サイファーも雷神も、少しバツが悪くなり、
シーモアを小突き回すのを渋々やめた。

シーモアは、涙を一杯ためながらも、
また僕のライバルが増えてしまった・・・・・・と思っていた。

「みんな、また新しい子が来たんだ。紹介するよ。」
「俺ジタン!よっろしくぅ〜〜〜〜〜!!」
「って男相手じゃつまんねぇなぁ・・・アービン、ブリッツって教えてくれよぉ!」
「うん!折角だから、みんなで遊ぼうよぉ。」

あっけらかんとした二人に言われると、
この機会にシーモアをうんとこらしめてやろうと思っていたサイファーも
嫌とは言えなくなってしまった。

「しょうがねぇな。じゃ、俺様が見本を見せてやる。」
「かかってこいやぁ〜〜〜〜(あれ、ギップルの台詞だ・・・)」

そういって子供たちはみんな海へ入っていった。
シーモアも・・・おずおずと、
しかし、しっかりと皆に合流していく。

バルコニーからこの様子を見ていたイデアは、
至極満足そうに微笑むと、
台所へ朝食の用意をしに向かったのであった。

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