FF9 化身
直前の画面に戻るWritten by サエ

僕は・・・ただ力が・・・
何者にも負けない、強い力が・・・
欲しかっただけなんだ・・・


彼はその日、不思議な夢を見た。
霞がかった暗い湿地帯に足をとられながら、
必死に何かから逃げる夢・・・
いや、自分が、何かを追いかけているのか?
自分がその『何か』を捕らえた瞬間、
そのヌメヌメとした感触をはっきりと手の平に感じ、
その嫌悪感で彼は悲鳴と共に夢から覚めたのだった。

(ああ・・・なんだか嫌な夢をみたようだ)
(寝汗をこんなにかいてしまったよ・・・)
(朝シャンでもして、気分爽快になろう)

彼は異様に重く感じる自分の体をひきづるようにして
シャワー室へと向かった。
そこは、彼のお気に入りの場所でもある。
クリスタルワールドからこっそり盗ってきたクリスタルにより
360度見回す限り総鏡張りの特性シャワールームとなっている。
彼のご自慢のスレンダーボデーを飽きることなく
眺めることができるのだ。
ここでシャワーを浴びながら自分を鑑賞することが
彼の唯一の気晴らしだ。
こうして嫌な気分を吹き飛ばそうとしたのだが
彼の真の悪夢は、今この時より、始まるのだった。


な、なんじゃこりゃ〜!


思わず優作風の台詞を吐いてしまったのも無理はない。
クリスタルに映る自分の姿は、
裸にエプロン・・・いや、裸にコック帽といういでたちで
明らかにク族と思われる生物が映っていたからである。
十字キーのような簡単な目、特徴的な膝まで届く長い舌。
なによりも、
クビレどころか胸と腹と尻の境目もないぐらい伸びきったずん胴の体・・・
彼はショックのあまり喉に酸っぱいものがこみ上げてきた。
鏡に映るそのク族も、  
同じようにもどしそうになっているのを見て悲しみもこみ上げてくる。

思わずその鏡を壊したくなる衝動に駆られたが、
いつ元の姿に戻れるかもわからないので
そこは我慢してシャワー室から飛び出したのだった。

(なにか、着なくては・・・こんな姿を誰かに見られたら・・・)

それこそ恥ずかしさのあまりショック死しかねない!
彼は、これまたご自慢の衣装室へと駆け込んでいった。

(しまった・・・ぜぜん、届かない・・・)

彼の愛用の黒紐パンを穿こうとしたのだが、
このク族の体には全く長さが足りない。
片足を紐に通したまま、
彼はバランスを崩しそのままひっくり返ってしまった。
その拍子に、ベッドの下に何故か落ちていたク族の衣装を発見する。
嫌々ながらも、裸のままよりマシだと思いその服を身に着けていった。

「あれ、君、だ〜れ?」

心臓が止まりそうになりながら後ろを振り返ると、
そこには彼が召使として雇っている黒魔道士1号君が立っていた。

「ダメだよ〜勝手に入っちゃ!」
「ご主人様に怒られちゃうよ・・・あれ?」
「ご主人様はどこに行っちゃったのかな?」
「な、なんだか急用ができて、留守にした・・・アルよ・・・」
「ふーん、そうなんだ。朝ご飯の用意出来たんだけどなぁ。」
「ところで君はだ〜れ〜?」
「僕はクジ・・・、ク、ク、ク・・・、」
「クオウ・・・アルよ・・・」
「ふーん、新しいコックさん?」
「そ、そう・・・アルよ・・・」
「そっか、じゃ厨房に案内するね!」

疑うことを知らない1号君、呑気に「クオウ」を厨房へと案内する。
厨房には、本来なら彼が食べるはずだった朝食の準備が出来ていた。
美味しそうな匂いに、
思わず「グーーー」とお腹の虫も賛同の声をあげている。

「ダメだよ〜、これは、ご主人様のご飯だから。」
「あ、君には、とっておきのがあるよ!!」

1号君が厨房でゴソゴソと何かを探しはじめた。
朝からご飯を食べないと元気が出ない彼(以外と健康?)、
お腹を押さえながらテーブルにつく。

「あ、あった!ほら、これだよ!!凄いでしょ!?」

自慢げに黒魔道士1号君がクオウに差し出したものは

黄金カエルだった。

(い、い、いやだーーー!)
(なんでク族は、こんなものが大好物なんだーーー!?)

ところが彼の意思に反して、
その黄金カエルに対して彼の「手」は伸びていく。
黄金カエルをむんずと掴んだその感触は・・・
まさに今朝、夢で体験したあの感触そのもの!!



いやだやめろーー、こんなものを200匹も食うのか!?
いくら力が欲しくても 「カエル落とし」なんて覚えたくなーーーい!
だからと言って、ネズミにも、なりたくなーーーい!!
一体、何がどうなってるんだ・・・
こ、これはもしかして、ガーランドの陰謀か!?
ぼ、僕を、「僕自身」では失くすための・・・
僕の「魂のタイムリミット」とは、このことだったのか!?



黄金カエルを自分の口へ入れた瞬間、
彼は目を覚ました。


一瞬何が起こっていたのか理解できず、呆然と自分の手先に視線を落とす彼。
そこには、いつもの白魚のような可憐な指先があった。
シャワールームへ駆け込み自分の姿を確認するとクリスタルには
「クジャ」が映し出されていた。


・・・認めない。認めないよ・・・
「僕」の存在を無視して世界が存在するなんて・・・


シャワールームで3時間ほど篭りっきりになった彼は決意も新たに
デザードエンプレスを後にしたのだった。

ページトップ▲

後書き
オカルトチックにしたかったのですが単なる夢オチに・・・^^;
inserted by FC2 system